(2023年3月17日)意見募集の結果が公表されました。
「教育データの利活用に係る留意事項(第1版)(案)」に関する意見募集の結果について

案件名:「教育データの利活用に係る留意事項(第1版)(案)」に関する意見募集の実施について
提出先:文部科学省 教育教育政策局教育DX推進室

提出日:2023年3月13日
提出者:一般社団法人MyDataJapan 公共政策委員会

一般社団法人MyDataJapan 公共政策委員会では、教育政策局教育DX推進室の「教育データの利活用に係る留意事項(第1版)(案)」のパブコメに対して、下記の通り意見を提出しました。

提出意見

Ⅱ.2.「本留意事項のねらい」について

本留意事項は、そもそもの策定目的においてバランスを欠くものとなっており、この点が最大の問題である。一般に、パーソナルデータの利活用に関するガイドラインは、データ利活用の促進と個人情報・プライバシーの保護の両立を目的とすることが通常である。ところが本留意事項は、この.「本留意事項のねらい」の部分において、個人情報保護法の遵守と児童生徒のプライバシー保護については正面から目的として掲げてはいない。すなわち、「各地方公共団体において教育データの利活用が始まりつつある中で、(中略)個人情報の適正な取扱いの確保やプライバシーの保護の観点からデータを利活用することへの心配の声があります。」として、プライバシー保護の観点からの「データを利活用することへの心配」を問題にしながらも、これに続けて、「(中略)このまま漠然と不安な状態だと、データの利活用を全く行わなかったり、データの利用を必要以上に制限したりする等、データの利活用がしづらい状態になってしまい、可能なはずの支援もできない状況となってしまいます。このため、今回、文部科学省において、教育データ利活用に当たって、(中略)教育データの利活用を進めていく際の参考として、安全・安心を確保する観点から留意すべきポイント等をまとめました。」としている。要するに、本留意事項は、プライバシーに関する「心配」や「不安感」をデータ利活用の阻害要因としてしかとらえておらず、「教育データの利活用を進めていく」ことのみをその目的としているのである。このような姿勢は、後述する問題点のいくつかにも顕著に表れている。

言うまでもなく、教育データの利活用を進めることは重要である。しかしながら、利活用と保護は車の両輪であり、個人情報保護法の遵守と児童生徒のプライバシー保護の重要性はデータ利活用のそれに劣るものではないのである。本留意事項は利活用と同時に、個人情報保護法の遵守と児童生徒のプライバシー保護をも目的とすべきである。

Ⅲ.1.3.2(2)「利用目的の特定」について

この部分において本留意事項は、個人情報保護法(以下「法」)61条2項の説明として「地方公共団体の機関は、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を保有してはならないとされています。そのため、その個人情報が、利用目的の達成に必要がないと判断される場合には、廃棄・削除等の適切な対応が必要となります」としている(16頁)。このうち第1文は正しいが、第2文がミスリーディングである。なぜなら、法61条2項が規定する保有の制限には、取得の制限も含まれるからである。つまり、必要な範囲を超える保有と判断される場合に「廃棄・削除等の適切な対応が必要」であることはそのとおりであるが、そもそもそのような対応を迫られるような情報は取得してはいけなかったのである。

1人1枚の端末配布が進み、各種センサーの機能向上により、児童生徒の見守りに関連性・有効性のある様々な情報が存在する今日の環境では、取得しようとする情報が「利用目的の達成に必要な範囲」のものかどうかを慎重に吟味することが61条2項の要求するところであり、本留意事項は、廃棄・削除等の話の前に、この点を明記すべきである。

この問題は、図表6「個人情報をこれから保有する場合の流れ(フローチャート)」(18頁)にも表れている。このフローチャートは一番左の「利用目的を特定してください」からスタートしており、この点は適切であるものの、その次はいきなり「個人情報を直接本人から書面(中略)で取得しますか」となっており、利用目的の明示の要否の問題になっているが、その前に、もう一つ「その個人情報は、特定した利用目的の達成に必要な範囲内のものですか?」の囲みを設けて、Yesであれば先ほどの直接書面取得か否かの判断に進み、Noであれば、「その個人情報は取得してはいけません」とすべきである。

Ⅲ.1.3.2(3)「利用目的の明示」について

 この部分において本留意事項は、「利用目的の明示の方法は、児童生徒本人にお便りやメール等であらかじめ示しておく方法のほか、教室における掲示や集会での説明等の口頭による方法も考えられますが、いずれにせよ、本人が利用目的を認識することができるよう、適切な方法により行うことが必要です」とする(17頁)。しかしながら、児童生徒の年齢によっては、示された利用目的を十分に理解できないことも生じるであろう。本留意事項は、さらに「もっとも、学校教育においては、保護者が、児童生徒を本人とする個人情報を含む教育データの利用目的を把握しておきたいと考えていることもあります。そのため、学校の実態や利用する個人情報の種類に応じて、保護者に対しても利用目的を明示することは、より丁寧な対応となります」(17頁)としている。しかしながら、児童生徒が低年齢の場合や利用目的が複雑であるため、児童生徒本人による利用目的の十分な理解が期待できない場合には、児童生徒本人ではなく、保護者に対して利用目的を示すことを必須とすべきである。

あわせて、児童生徒に利用目的を理解させるために、どのような表現が適切か、本留意事項に具体例を記載すべきである。

 次に、この部分において本留意事項は、「利用目的の明示を義務付けることが適当でない場合や、利用目的が明らかである場合にまで、一律にあらかじめ利用目的を明示することは合理的でない場合があり、そのような場合の例外についても定められています」として一定の場合に利用目的の明示を不要とする法62条各号を紹介している。しかしながら、実際には例外にあたらないにも関わらず、誤って利用目的の明示を省略してしまうことがないように、各号の内容を具体的に説明すべきであり、特に「利用目的が明らかである場合」(同条4号)については、具体的にどのような場合がこれに当たるのか、考え方と具体例を分かりやすく示すべきである。

Ⅲ.2.「プライバシーの保護」について

 この部分において本留意事項は、「プライバシーの保護が十分でなかった場合、国家賠償法に基づく国家賠償請求等のリスクが発生するおそれがあります」(28頁)としながらも、「いわゆる『プライバシー権」として主張される内容は、(中略)極めて多様かつ多義的なものになっており、判例等から一義的な定義を見出すことは困難です」として早々に裁判例の話を切り上げて、PIA、プライバシー・バイ・デザインおよびELSIについて簡単に紹介してこの項を終わっている。しかしながら、教育データの利活用において最も重要なことは、児童・生徒のプライバシーを侵害しないことである。特定の利活用が裁判所によってプライバシー侵害とされ、損害賠償請求や差止の対象となれば、対象となった児童生徒の権利を侵害するばかりでなく、教育データの利活用全般についての社会の信頼を失わせ、本留意事項最大の関心事である利活用の萎縮につながるおそれがある。本留意事項がここで触れるべきことは、教育データの利活用において想定されるプライバシー侵害のおそれについて、裁判例を参照しながら具体的に検討することである。

この点、たとえば個人情報保護委員会が公表した「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」においては、14の裁判例について判決文を引用して検討し、プライバシー侵害の判断基準がどのようなものか、防犯カメラにおいて注意すべき点は何か、ということを検討している。本留意事項においても、本来は、取得型のプライバシー侵害について裁判所が判断した事案を取り上げて、そこにおける裁判所の判断基準はどのようなものか、教育データの利活用において注意すべきことは何かを記載すべきであった。具体的に検討すべき裁判例としては、Nシステムに関する一連の裁判例、コンビニの防犯カメラに関する裁判例、住基ネットに関する一連の裁判例、航空会社の労働組合が従業員に無断で従業員のデータベースを作成したことに関する裁判例などが挙げられる。特にこれらの事案において裁判所が、機微な情報の取得や網羅的な情報の取得について、プライバシー侵害のおそれが生じる場合があると判断していること、および取得後の情報が安全に管理されない場合にはプライバシー侵害のおそれがあると判断していることには注意が必要である。

以上のとおり、本留意事項は、プライバシー侵害についての重要な記載が欠落しており、その点で瑕疵のあるものとなっている。

Ⅳ.「Q(1)教育データとは、具体的にどのようなものを指しますか。」について

 このQAにおいて、本留意事項は、利活用の対象となる教育データに行政系データが含まれることを示している(35頁)。本留意事項は、行政系データについて特に限定を設けていないが、行政系データの範囲は広く、たとえば、納税額や生活保護受給に関する情報、両親の前科情報(選挙資格との関係で地方公共団体が保有している)などが含まれる。実のところ、これらの世帯の生活水準に関する情報や両親の賞罰に関する情報が、児童生徒の特性・状況となんらかの因果関係を有することは可能性としてあり得ることであり、これをAIの分析により実証することもいずれ試みられるであろう。しかしながら、これらの行政系データに対して教育委員会や学校がアクセスし、児童生徒の情報に紐づけて利用することについては、社会的受容性があるとは到底いいがたく、裁判所によってプライバシー侵害とされるおそれも高いと思われる。したがって、本留意事項においては行政データについての限定を示すべきであり、権利侵害のおそれや社会的受容性等の観点から、現時点において利活用可能なものを限定列挙で示すべきである。

Ⅳ.「Q(4)新たな学習用ソフトウェアを契約・導入するときは、どのようなことに気を付ければよいですか。」について

 本留意事項には触れられていないが、児童生徒の学習は継続的に行われるべきであり、学習用ソフトウェアの契約・導入に際しては、その点の配慮が不可欠である。第一に、学習用ソフトウェアのベンダーの倒産等により、学習用ソフトウェアが利用できない事態となることを避けるべく、ベンダーの財務状態や事業継続性について判断することとすべきである。第二に、児童生徒の転出の際に、継続的な学習が可能になるよう学習用ソフトウェアの相互運用性や学習用ソフトウェアに蓄積されるデータのポータビリティについても検討することとすべきである。

AIによるプロファイリングについての記載がないこと

本留意事項には、記載がないが、今後、教育データの利活用の場面ではAIによるプロファイリングが多用されることになると思われる。これについて、本留意事項はどのようなプロファイリングが許容されるのかをプライバシーの観点から検討すべきであった。具体的には(1)どのような利用目的で用いることができるのか、(2)どのようなデータを利用することができるのか、(3)プロファイリングの結果についてどのように扱うべきか、などである。たとえば、(1)利用目的については、学習能力の向上は許容されるが、逸脱行為の可能性測定は許容されないのではないか、(2)利用可能なデータについては、脈波や瞳孔などの生体情報の利用には制限があるべきではないか、(3)プロファイリングの結果については、児童生徒に強制するのではなく、児童生徒本人の希望を優先させるべき場合があるのではないか、等である。これらは、AIによるプロファイリングが当然に想定される教育データ利活用に関する大問題であり、本留意事項がこの点についての記述を欠くのは不適切というべきである。

以上