案件名:オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)についての意見募集
所管省庁・部局名等:総務省総合通信基盤局電気通信事業部 利用環境課
提出日:2026年6月15日
一般社団法人MyDataJapan
東京都港区南青山3丁目1番36号青山丸竹ビル6F
一般社団法人MyDataJapan は、総務省総合通信基盤局電気通信事業部 利用環境課の「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書(案)についての意見募集」について、以下のとおり意見を申し述べます。
オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 報告書案に対する意見
1.はじめに
ブロッキングは、「通信の秘密」や「知る自由・表現の自由」といった重要な国民の権利を侵害するおそれのある対策である。その侵害の対象はブロッキングにより流通を防ごうとする違法情報にアクセスしようとする者に限られない。インターネットを利用するすべての国民が対象となる。そのため、ブロッキングの実施には、(1)他の権利制限的ではない手段が十分に尽くされていること、及び対策として有効性があること(必要性・有効性)、(2)ブロッキングにより得られる利益と失われる利益が均衡していることが認められること(許容性)が前提条件となる。本報告書案は1.「中間論点整理の概要」においてこの点を明確にしている(3頁)。
本報告書案は、上記、(1)必要性・有効性と(2)許容性の各点について、構成員の意見を紹介しつつ「検討」において本報告書案としての判断を示している。そこで、本報告書案の各「検討」について、以下のとおり意見を述べる。
2.必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)
この点に関する「検討」においては、賭博をした者だけでなく、賭博場を開張している者に対して検挙を行うことが重要であること(12頁)、警察は、引き続き取締りの推進に努める必要があること(12頁)、一部の大手CDN事業者と関係省庁の間で削除の促進に向けた協議等が行われていることも踏まえ、今後、CDN 事業者による対応状況等を見据え、ブロッキングの必要性を判断すべきであること(12頁)、昨年7月に開始されたクレジットカード取引に係る官民関係者が連携の取組の効果を十分に検証し、ブロッキングの必要性を判断すべきであること(12頁)が述べられている。これらは、いずれも的確な指摘である。しかしながら、以下の2点において大きな問題がある。
まず、「海外で合法的に行われていることから、一般的に、当該国や地域の捜査協力が得られにくい等、法執行は容易ではない。今後も、捜査資源を適切に投入してもなお、賭博場を開張する者の取締り等が困難である場合は、そのことを前提として、ブロッキングの必要性を判断すべきである」(12頁)とする点である。多くのオンラインカジノが特定の事業者のCDNサービスを利用していることおよびそのCDNサービスの国内利用者向け配信に日本国内のCDNエッジサーバ又は配信設備が用いられていることは、検討会第4回で日本インターネットプロバイダ協会の報告により明らかにされたところであり(資料4-3)、オンラインカジノのサービス提供者自体が海外事業者であったとしても、関係者は多く国内にいることが想定される。このことを無視して「海外で合法的に行われているから」法執行が困難とするのは不合理である。国内における捜査活動、特に特定のCDN事業者に関する捜査が行われなければ、必要な対策が尽くされたとは評価できないであろう。そもそも、国内からアクセス可能なオンラインカジノのウェブサイトはオリジンサーバではなくCDN事業者のサーバにあることを考慮すれば、CDN事業者がオンラインカジノサイトを知りつつ放置する行為は、賭博場開帳図利罪の共犯が成立する可能性があるものであり、これに対する捜査は必要不可欠である。
次に、本報告書案は、関連情報の削除について、「検索ヒット数や目撃・検索経験が減少傾向にあるなど、一定の効果が認められる」としている。しかしながら、たとえば2026年6月11日に、ログアウト状態・日本国内から Google 検索で「オンラインカジノ」を検索したところ、検索結果上位にオンラインカジノ紹介サイトが複数表示される例が確認された。これら検索結果の紹介サイトにおいてはオンラインカジノの利用方法の説明と共に、紹介する個々のオンラインカジノのサイトへのリンクが張られており、カジュアルユーザが容易にアクセス可能な状況にある。海賊版サイト対策では検索結果からの削除要請等が重要な対策として位置付けられてきたことと比較して、オンラインカジノについては、少なくとも現時点で、紹介サイトを含む検索導線が十分に抑制されているとは言い難い。このような状況では、必要な対策が尽くされたとはおよそ評価できないであろう。
3.有効性(ブロッキングは対策として有効か)
有効性に関する本報告書案の「検討」は、ブロッキングには回避策があるものの、「若年層・カジュアルユーザ」には一定の効果が見込めるとするものである。その理由として、諸外国でもDNSブロッキングを実施し、一定の効果が報告されていること、および、日本でも約95%の利用者がISPのDNSを利用しており、この数値は、諸外国(ブロッキング実施国を含む)でも同様であること等を挙げている。しかしながら、このような「検討」は以下の観点で疑問がある。
第1に、本報告書案が「若年層・カジュアルユーザ」にのみ効果を認めるのは、依存症が進行したユーザに対しては、ブロッキングの効果がないことによるものである。「若年層・カジュアルユーザ」にしか効果がないことは、真に被害が深刻であり、人格的利益を侵害されている層への効果がないということであり、それ自体がブロッキングの効果が限定的なものであることを物語っている。仮に、本報告書案の「検討」が正しいとしても、ブロッキングの効果は予防的なものにとどまり、依存症の進行により人格的利益を侵害されつつあるユーザの救済にはつながらない。その意味でブロッキングの有効性は人格的利益の侵害との関係では限定的なものである。
第2に、「日本でも約95%の利用者がISPのDNSを利用しており、この数値は、諸外国(ブロッキング実施国を含む)でも同様であること」はDNSブロッキングの有効性を示す証拠とは言い難い。なぜならば、ここでブロッキングの有効性を示す可能性があるのは「ブロッキングのない状態でISPのDNSを利用していた人がブロッキングによりどの程度パブリックDNS等の回避手段に乗り換えたか」にかかる数値である。乗り換え率(回避率)が低ければDNSブロッキングは有効であるといえるであろう。本報告書案の「検討」は、わが国におけるオンラインカジノブロッキング前のISPのDNSを利用する割合とブロッキング実施国を含む諸外国でのISPのDNSを利用する割合を提示するのみであり、わが国についても、諸外国についても「どの程度乗り換えたか」に関する数値を示すものではない。また、「95%」は、全ユーザを母数(100%)とする割合であるが、オンラインカジノのユーザ数が全ユーザ数との対比でこの割合を変更させるほど多いかどうかも疑問である。言い換えれば、仮にオンラインカジノのユーザの全員が回避によりISPのDNSを利用しなくなった場合と全員が回避せずに利用し続ける場合とで、この95%の数字が変化するか否か、また変化するとしてどの程度変化するかは不明である(どちらの場合も95%が維持される可能性もある)。このような「どの程度乗り換えたか」と関連性の乏しい数値を根拠として、DNSブロッキングには一定の効果があると根拠づけることは明らかに合理性がない。
第3に、前記日本インターネットプロバイダ協会の報告は「ブロッキングの回避は案外簡単」としている。これはオンラインカジノのサイト運営者側のブロッキング回避に関するものである(資料4-3)。この報告によると、①サイト運営者は、ブロッキングが実施された場合、回避方策をユーザに伝える動機を持つため、ブラウザやOSの設定変更を説明する動画などを公開することが予想される、②スマホアプリについては、最初から回避手段をビルトインすることも可能である、③ドメインホッピングは、複数のドメインを使い捨ての形で変更する手法であり、有効なブロッキング回避策となり得る、とのことである。具体的には、DNS ブロッキングが特定ドメインを対象とする以上、オンラインカジノ事業者が別ドメイン又はミラーサイトへ誘導を切り替えた場合、ブロッキングリストの更新が追いつかない可能性がある。特に、検索結果上にオンラインカジノ紹介サイトが残り、当該紹介サイトがアフィリエイトフィーを得るためにリンク先を随時更新する以上、利用者は検索結果から紹介サイトへアクセスし、そこから新たなドメインへ誘導され得る。この場合、検索結果に表示される導線自体は維持されるため、ドメインホッピングは有効な回避策となり得るのである。
第4に、2026年6月11日時点で、Google検索により「ブロッキング回避」等の語で検索すると、パブリックDNSの利用を含む一般的な回避方法を説明するページが容易に見つかる例が確認された。このウェブサイトでは、パブリックDNSの利用をはじめとするブロッキング回避方策が分かりやすく説明されている。このような状況では、たとえ若年層・カジュアルユーザに対象を限定したとしても、その有効性には疑問があるといわざるをえないであろう。
4. 許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)
この点については、本報告書案の「検討」は、今後の課題であることを明確にしている。すなわち、ギャンブル等依存症は、①違法オンラインカジノに限るものではなく、また、②全ての者が必ず陥るものともいえないこと、を前提として、違法オンラインカジノ固有の侵害性の内実を突き詰め、ギャンブル等依存症に陥る危険性や違法オンラインカジノの実態等を踏まえ、ブロッキングにより失われる利益と均衡するかどうか検討していくことが不可欠である、とするのである(23頁)。
このように、更なる検討が必要とする点は妥当であるものの、「ブロッキングを実施する場合、その「目的」については、主として違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の予防やこれを生み出す違法オンラインカジノの流通・蔓延防止とするのが適当であり、加えて、違法な行為による国富の流出防止・スポーツ健全性の確保の観点も踏まえる必要がある」とする点(24頁)には疑問がある。国富の流出やスポーツ健全性の確保は、法益ないし法的利益と言えるかどうかさえ分からないような性質のものであり、これらをいわば「合算」して、通信の秘密との法益の比較を行うことは適切ではない。
次に、「中毒に陥らせるようなアルゴリズムによって巧みに利用者の射幸心を煽り、賭け行為をエスカレートさせてコントロール障害を生じさせ、個人の内心の意思決定の過程に影響を及ぼし得ることなどが指摘されている」とする点は妥当である(23頁)。ただ、アテンションエコノミーの下でアルゴリズムによって、個人の認知能力を侵害する問題は、諸外国では子どものソーシャルメディア利用や脆弱性プロファイリングと広告表示や広告収益などの文脈で盛んに議論されて来たところ、日本ではこれらの文脈での議論がまったく不十分であり、オンラインカジノでこのような言及がなされることには唐突感を否めない。この問題はオンラインカジノに固有の問題とされるべきものではないことに注意が必要である。
また、「許容性(ブロッキングにより得られる利益が失われる利益と均衡するか)を具体的に検討するに当たっては、違法オンラインカジノに係るギャンブル等依存症の危険性や違法オンラインカジノの実態を踏まえる必要がある」とする点は、一定の合理性はあるものの、法益の比較の際には、それだけでは不十分であることも明らかである。許容性の検討にあたっては、①ブロッキングによって通信の秘密を侵害されるユーザの人数とブロッキングによって守られるオンラインカジノのカジュアルユーザの人数、②依存症が進行したユーザや継続的利用者については、回避手段を利用する動機が強く、ブロッキングの効果は限定的であると考えられること、③パチンコパチスロ等他の合法ギャンブルの依存症被害者の人数とオンラインカジノの依存症被害者の人数、④他の合法ギャンブルを含めた依存症被害者に対して採られている対策(ブロッキングに比肩しうるような抜本的対策が採られているか否か)、等を合わせて考慮することが必要である。
通信の秘密と依存症被害者の権利という全く異なるものを比較することは、およそ容易ではないが、ここで重要なことは、許容性の検討はあくまでも各法益の意義・性質の比較であるということである。具体的な現象や目に見える被害は考慮の対象にはなるものの、最終的には、それらを踏まえて、各法益が現代社会において国民にとってどのような意味をもち、かつそれぞれがどのような法的評価を受けているかを吟味することによって決せられるべきものである。
以上
